受賞作を読む

締切まであと僅かとなった第四回俳句賞「25」。

運営委員らが過去の俳句賞「25」受賞作品を振り返り、鑑賞や優れた点を語ります。

 

日比谷:構成力が高いなって思った。学校生活をテーマにした句が並ぶ中で「冬の蜂」「日向ぼこ」みたいな学校生活に関係ない句が入ると、そこがアクセントになってくるしセリフ調の句も「学校生活」っていうテーマのおかげで悪目立ちせずに存在感を放てる。主張の強くない句も、強い句が連続して読者を疲れさせないとか読者を強さに慣れさせない的な意味でいいなって思ったかな。春夏秋冬の割合を均等にすることよりも自分たちの表現したいことを優先して、世界観を纏め上げたなって印象。

細村:確かに。高校生っていう属性に振り回されずにむしろそれを活かしながら組み立ててる感じがする。「水道水細し」で始まってるのも、発句としてゆるやかに連作の世界に切り込んでいく感じがして良いよね。中井さんは気になった句とか好きな句はある?

中井:二十五句通して平明な言葉で書かれているのが一つの強みだと思う。「黒板を大きくつかう冬日和」は、冬の日のあたたかさ、伸びやかさがわかりやすい言葉だからこそ活きてる。日常の中のふとした一瞬を切り取った句の中に、「稲妻や」「放課後の」みたいなドラマ性のある句が際立ってるよね。秋〜冬の彩度低めなトーンの中で起伏があって、構成の手堅さを感じたかな。

細村:確かに、読みやすさとドラマ性が両立してるね。文語・口語、旧仮名・新仮名が混じった作品が受賞したってことは、先生方が細かい措辞よりも連作の世界観や青春性を重視してるんだと解釈したんだけど二人はどう思う?

日比谷:言われて初めて気づいた。(笑)表記のばらつきを指摘して選考から落とすより、大目に見て高校生のモチベーションを下げないことを重視したのかな。ひとまず応募することってすごく大事だから。

中井:私も、先生方は細かい部分を厳密に、というより、世界観や句を重視して選ばれたのかなと思う。自分が第二回俳句賞「25」に応募した時も、口語・文語混合の連作だったし…。一人で編む連作なら文体にも気を配れるけど、四人〜七人いれば作風もそれぞれだろうし、完全に統一するのは難しいかも?

細村:そうだね。高校生に「連作を作るって楽しい!」って思ってもらいたいし、その方針には賛成だね。「我らが日々に」っていうタイトルは全体のイメージからつけたのかな。

日比谷:だいぶ大仰なタイトルだよね。(笑)連作の中の一句からタイトルを付けるっていうのが主流だと思うけど、一人で編む連作じゃないから一句のフレーズから引用っていうのは難しいだろうし。「十六の」の句の大袈裟な感じもタイトルと響き合うから、これもアリだなって思わせる力がある。

細村:いろんな作者がいて一つの連作を作る、っていうこの賞の特徴をうまく活かしてるよね。複数の主体が代わる代わる出てきてメドレーのように見える。

中井:学生生活をテーマとしていることも分かりやすいよね。個人的にはちょっと直球すぎるかも?とも思う。

細村:どれくらいのテーマ性を持たせるかっていうのは難しい問題だよね。正直、俺もわかんない。()

 

 

細村:「我らが日々に」は、ストレートな表現性と25句が創り出す物語性のバランスが評価されたって感じだったね。せっかくだから奨励賞の作品も見ていきたいんだけど、名古屋高校の「地を出る」について気づいたこととかある?

日比谷:余裕があるというか自分が詠むべきものをわかってるような、そんな感じ。作者がわかってのことだけど名古屋高校らしいなっていう連作。「琉球の」の上五中七で大きな景を見せて下五の「蒲団」に落してくるところとか、「空に」じゃなくて「空を」にしている助詞の選択とか。「我らが日々に」がテーマで統一感を持たせているとすれば「地を出る」は感性で統一させてるイメージがあったな。男子校の人間って根っこの部分で一緒みたいな偏見があって、もしかしたら4~7人で編む連作を感性で統一させることができたのはそこに起因するのかなって考えたり。

細村:確かに、俳句の技術力が全体的に高く仕上がってる印象を受けるね。

中井:冬の沖縄詠というテーマの中で、グラデーションを持たせつつ上手くまとまっている、って印象かな。モノを描いた句が大半だけど、季語の力や描写もあって生き生きした生命感を感じるというか。冬の連作だけれど彩度が高い感じがする。技巧を感じる。

 

細村:珍しいテーマだよね。でもそのテーマ性に溺れずに、きちんと自分たちの作家性を活かした作品を揃えているところも評価されたのかな。

細村:洛南高校の「鰓呼吸」は、文体や句の空気感がかなり統一されている印象を受けるね。

母校だから手前味噌にならないように気をつけないと。()

日比谷:「子規忌」とか「蚯蚓鳴く」っていう難しい季語に積極的に挑戦していてすごいなと。タイトルが「鰓呼吸」だからどこで出てくるんだろうって思ってたけど「鰓呼吸」の句は無くて、ゆっくり読み返してみたら、見逃してた「見下ろして」のよさに気づいてびっくりした。他に気になった句でいうと「理不尽に」と「蝶々や」の二つで、「見下ろして」にも言えるんだけど対象への深慮がすごくきれいだなって。「理不尽に」は「きれい」とは違うかもしれないけど。

中井:多人数の連作だから、モノに即して写実的に詠んだり見立てだったり観念的な句だったり、当然色々な作風があるんだけど、全体的に一つのトーンの中にまとまりつつ、それぞれの作者の個性が見えるのが良いね!一歩踏み込んで「湯気」の描写に努めた「風呂吹の」、「風薫る」の絵画的な景と雑踏の音や匂いを想起させる取り合わせ、一貫して音に注意を傾ける「虫籠や」が特に良い句だと思いました。

細村:写生を基盤とした詠み方が全員に浸透していることが、2人の言う対象への配慮やトーンの統一を生み出しているんじゃないかな。最後の「稲刈りの」の句なんかはシンプルだけどなかなか詠めないよね。

日比谷:そうね、すごく描写が効いてると思う。

 

細村:改めて受賞作を見て、もちろん個人の技術や経験も大事だけど、それ以上に素直な表現とか作品としてのまとまりといった点の水準が高いことに気づかされたなぁ。せっかくだから、これから応募する高校生に向けて2人からメッセージをもらおうかな。()

中井:そんなに大したことを言える人間じゃないけど…。(笑)今回見た受賞作は、どれも個々の技術と連作としてのまとまりのバランスが素晴らしかったと思う。俳句賞「25」では、学校や学年の壁を超えての連作ができます。高校時代にはなかなかできない経験だと思います。直接会って句会など行うことが難しい今日だからこそ、普段は会えない俳句の友達を誘ってぜひチャレンジしてみてください!

日比谷:頑張っても必ずしも報われるわけじゃないけど、一人ひとりが頑張ったらいい大会になるのは絶対だし、受賞はできなくても注目される連作になることも確か。「迷わず行けよ行けばわかるさ」。

 

細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)2000年生。洛南高校在学中に第1,2回俳句賞「25」に応募。第16回鬼貫青春俳句大賞受賞。「奎」所属・慶應俳句会代表。

日比谷虚俊(ひびやきょしゅん)…2000年生。太田高校在学中、第1回俳句賞「25」に応募。第16回鬼貫青春俳句大賞敢闘賞。「いぶき」・「楽園」・東大俳句会所属。

中井望賀(なかい・みのり)…2000年生。愛光高校在学中に第2回俳句賞「25」奨励賞、第14回鬼貫俳句大賞敢闘賞受賞。東大俳句会・早稲田大学俳句研究会所属。